倒れない、自律走行する。AIエンジニアが放った「自律型自転車」がGitHubで全公開

世界のテック巨人が、4輪車のハンドルから人間を解放しようと何十億ドルもの巨額資金を投じている。だが、AIエンジニアのPeng Zhihui(ポン・チーフイ)氏は、それよりも遥かに「厄介な」課題に挑むことに決めた。それは、2輪の自転車からライダーを降ろすことだ。その結果誕生したのが、自律走行型自転車「XUAN-Bike」。驚異的な自己バランス能力を備え、複雑な環境を自力でナビゲートし、障害物を鮮やかに回避する。さらに彼は、このプロジェクトの全てをオープンソースとして公開するという、エンジニアとしてこれ以上ないほど「粋な」振る舞いを見せた。

この自転車は、複雑なシステム統合の結晶といえる。その「脳」には、HuaweiのAscend 310 AIプロセッサを搭載したカスタム制御ボードを採用。視覚にはRGBD深度カメラと、加速度センサーやジャイロスコープといった伝統的なセンサーを組み合わせて使用している。しかし、真の魔法は「バランス・システム」にある。単にハンドルを切って調整するのではなく、サドルの下に設置された高速回転する金属製のモメンタム・ホイール(弾み車)がジャイロ効果を生み出し、停車時ですら自転車を直立させ続けるのだ。その不気味なほどスムーズな動作は、Bilibiliで確認できる。

XUAN-BikeのCADレンダリング画像。カスタムモーターと制御システムの詳細が確認できる。

システム全体は、ディープラーニング・アーキテクチャであるHuaweiのMindSporeフレームワーク上で動作するニューラルネットワークによって制御されている。これにより、単なるバランス維持に留まらず、周囲の状況を認識し、障害物を特定して最適なルートを導き出すことが可能になった。プロジェクトのドキュメントによれば、制御モデルはLQR/MPCとカスタムの強化学習アルゴリズムに基づいているという。もし、この物理法則を無視したようなマシンを自らの手で再現したいなら、Peng氏はハードウェアの回路図、モデルファイル、そしてソースコードをすべてGitHubリポジトリで惜しみなく公開している。

なぜこれが重要なのか?

これは単なる「驚くほどクールな週末の自由研究」ではない。現代ロボティクスと制御理論におけるマスタークラス(最高傑作)なのだ。XUAN-Bikeが証明したのは、適切なAIハードウェアと洗練されたソフトウェアを組み合わせれば、個人が企業の巨大な研究開発ラボに匹敵するほど複雑な自律システムを構築できるという事実だ。このプロジェクトをオープンソース化したことで、Peng氏は学生や研究者、ホビーユーザーたちに、動的安定性や自律ナビゲーションといった高度な概念を解き明かすための計り知れないリソースを提供した。真のイノベーションは、必ずしも企業の会議室から生まれるわけではない。時には、ガレージに籠もった一人のエンジニアの「自転車に不可能を強いたい」という純粋な執念から生まれることもあるのだ。